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				|  |  VOL21 霧笛楼濱カレー物語
 
 山崎洋子作「霧笛楼濱カレー物語」
 
 電話のベル。
 三回ほど鳴って受話器の外れる音。
 
 「シェフ、ハマカレー・プロジェクトから電話です!」
 
 若いコックが私を呼んだ。
 
 「今平さんですね? 今年のハマカレーをぜひ、あなたに創作していただきたいのです。あなたの感性と経験で、どうか、横浜らしい、横浜にしかないカレーを創っていただきたいのです」
 
 「わかりました。光栄です。やらせていただきます」
 
 私は静かに受話器を置いた。
 だが心は、はやっている。おそらく顔に血がのぼり、酒でも飲んだかの
 ように少々、頬が赤らんでいただろう。
 そんな私を見ていた若い料理人が、納得できないという顔つきで言った。
 
 「あのう、シェフ」
 「なんだ」
 「カレーでしょ?」
 「カレーだよ」
 「うちはフレンチじゃないですか。なのにどうして、いまさら、霧笛楼のシェフともあろう人がカレーを……」
 「おい、カレーをあなどるんじゃないぞ」
 「わかってます。だけど、カレーはカレーじゃないですか。第一、うちのメニューにもカレーなんかないし」
 「これはな、おれにとって運命なんだよ」
 「は?」
 「来るべきして、その運命が来たんだ」
 「どういう意味ですか」
 
 若いコックは、とまどった顔で私を見返している・・・。
 
 
 
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